最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)164号 決定 1968年7月16日
本籍並びに住居、愛知県西尾市平坂町梨子山八番地
会社社長兼パチンコ店経営
松川竹平
大正八年一月一〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四二年一二月二六日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人森田友五郎の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長栽判官 下村三郎 栽判官 田中二郎 栽判官 松本正雄 栽判官 飯村義美)
上告趣意書
昭和四三年(あ)第一六四号
被告人 松川竹平
弁護人森田友五郎の上告趣意(昭和四三年三月四日付)
原判決は刑の量定甚だしく不当にして社会正義に反するものである。
1 パチンコ営業者に対する税額申告に当つては本件被告の場協同組合と管轄税務署がパチンコ機一台に付課税価格何円と決定して設備台数に乗じて所得額を決定申告して課税納付して来た。
上告人方は会計及所得申告等一切の事務を税務署に久しく勤務して退職後税理士を開業して居る阿川忠夫税理士に依頼して取扱つて貰つた各店の収支伝票は毎日各店主任から上告人の妻に渡しこれを妻が同税理士に渡して整理して貰つていた斯くの如く上告人自身は事業拡張と其資金借入れにのみ奔走しており収支計算所得申告等に付ては妻と税理士に任かせ切りであつた。
税務者と協議し其指通りに申告していたのに脱税と厳罰されることは常理に反す上告人に脱税の故意は更にない。
2 同一事犯に対し二重に処罰出来ないことは憲法及刑事訴訟法により明かである。
本件の場合行政罰たる重加算税参百余万円を徴収された上に本件刑事事件に於て罰金四百万円に処せられた全く二重処罰に類するものである故に本刑処罰に当つては此点充分酌量して罰金に付軽罰することが社会正義法律正義に適することである。
原審が懲役に付ては刑の執行ユーヨを附したが罰金額に付金四百万円を科しこことは著しく刑の量定を誤つた過重の判決である上告人は徴税と、此判決の罰金納付とよれば倒産に瀕する。
3 原判決は中小企業の維持、発展を阻害する社会正義に反するものである。
上告人は前供述の如く税務署と組合との協定に基き組合の指示に従つて申告納税したもので些かも脱税の故意かない。故に斯る本件に付ては罰金に付ては僅少の額を科することが適正であり社会正義に適するか故之に適する御処断を希求します。 以上